執筆:ミキアカリ
私の創作活動のきっかけとなる、空間に対する尽きない探究心。それは16才まで暮らしていた、今は無き東京の実家から始まったように思います。
建築家である父の設計した風変わりな家、そこでは高い天井、磨りガラスの大きな窓、ガラスのランプ、螺旋階段、壁一面の本棚に母の育てた生命力溢れる植物が、時折光と影を宿しながら、静かに呼吸していました。
のちに自分らしく生きたいと渡ったアメリカで、ずっと好きだった「つくること」がアートだと腑に落ちたのは大学に入った頃、空間に何かを置くインスタレーションという分野に出会った時です。
当時はアートといえば、絵画や写真、陶芸や彫刻としてしか知識がなく、更に立体で彫刻といえば木や石を彫ったり、鉄を型の中に流し込んだりといったものしかないと思い込んでいました。
しかし実際に使える素材は本当はどこにでも転がっていて、私の手に馴染みのある糸や布、紙や粘土と言ったいわゆるファイバーと呼ばれる繊維の材料も彫刻になることがわかりました。
そしてアートと並行して続けてきた歌や詩の創作などで培った世界観も、空間を構成する上での重要な鍵の一つとなることを知り、これが私のやりたかったことだと実感しました。
シカゴの大学院を選んだ理由、それはファイバー科のコンセプトが布のデザインではなく、様々な要素が繊維のように組み合わさってアートになるという捉え方、正にインスタレーションそのものだったからです。
初期の私のインスタレーションは、小さなかたちが連なってできる広い空間としての作品が主で、違う分野のアーティスト達と一緒に仕事をする機会も数多くありました。
やがて出産や子育てでつくれるものの規模が小さくなり、交流する相手も自分の子どもや、ワークショップを通して関わった個性あふれる人々へと変化していきました。
人々の呼吸やてのひらから生まれるもの、言葉や佇まいもアートの一部だと考えると、その可能性の無限大さにワクワクします。そしてその感動を同じ空間でシェアするツールとして、ワークショップがあるのではないかと私は考えています。
目に見えるかたちの向こう側にある秘密を覗くように、新しい発見をしながらアートを楽しんでもらいたい、そうして私も参加して下さった方々から何かを受け取って日々成長していけたとしたら、こんなにうれしいことはありません。
かつての私の実家の中で、様々なものがひっそりと共存していたように、アートは自分の身近にあるもの。そういう無意識の中の特別なつながりを心に留めながら少しずつかたちを変え、いつまでも空間を表現し続けていきたいと思います。
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